イメージ戦法はパフォーマンス向上に効果的。「坊主」が飛び交うレコーディング会場
「ねえ、わたし、坊主になれてる?」
「いや、もうちょっといける気がします!」
いつもお世話になっているレコーディングは、ときどきこんな雰囲気です。
これは、ディレクションとして他の方のレコーディングに立ち会っていた時のことです。
私は、OKテイクかどうかを判断することを含めた進行を務めていました。
声楽家にとって舞台とレコーディングは大違い
クラシックの歌い手にとってレコーディングは舞台とは違う点が多くあり、歌いにくさを感じる人が多いです。
特に、このレコーディングは合唱の参考音源として使われるものなので、その意味でも勝手が違います。
・マイクがあること(舞台ではマイク無しの身ひとつが多い)
・マイクが僅かな雑音も拾うこと
・ヘッドホンをつけて歌うこと
・伴奏がライブ演奏ではないこと
・正確に歌わなくてはならないこと(普段は魅力的に歌うことを求められる)
勝手が違えば、いつもより多少歌いにくくなるもの。
そしてその歌いにくさを近距離でマイクが拾い、ヘッドホンからそれが流れてくるため、歌いにくさをオンタイムで自覚しやすい環境です。
揺らさないロングトーンのコツは悟りを開くこと!?
多くの方が難しがるのが、得意でない音域でのロングトーン。
舞台では許される揺れや大きめのビブラートが、レコでは許されません。
「魅力的に歌う」ことよりも「正確に歌う」ことが求められる現場だからです。
この日も、そんなロングトーンに苦戦する場面がありました。
そして歌い手に
「ロングトーンを歌うコツってなに?」
と聞かれました。
私も、ロングトーンが苦手です。
だからいろいろな方法を試してきました。
その多くは効果がないどころか逆効果に近いものもありましたが、そのなかで生き残ったのが1つあります。
それが、無心になることです。
「私は、何も考えないようにして、ただできると信じて歌ってるよ」
そんな話をしていたら、歌い手は
「悟りを開けばいいのか! わかった! 坊主になる!」
と得心したのです。
イメージ戦法はかなり効果的
それが何であれ脳が描いたイメージはダイレクトに身体に影響を及ぼします。
再現性を持たせるためにはイメージだけでは弱いところがあるのですが、そのときのパフォーマンスを意図したところに持って行くにはイメージ戦法はとても効果的です。
脳はかなりのスーパーコンピューターで、イメージしたことを汲みとって身体の動作に反映させてくれるものなのです。
このレコーディングでもイメージ戦法は有効でした。
歌い手にとっては「坊主」がハマったようで、その後も
「ねえ、私、坊主になれてる?」
「いや、もうちょっといける気がします!」
「今、いいかんじに坊主が見えました!」
となぜか「坊主」が飛び交うレコーディング会場になったのでした。