シンゴジラは音楽を武器にした:伊福部昭の「収束感」と「切なさ」と「決意」
ゴジラといえば「伊福部昭」。
シン・ゴジラを見る前の私のゴジラ観は、他には「怖そう」くらいしかありませんでした。
幼稚園の頃、友達とピアノの黒鍵を指1本で叩いて「ゴジラ、ゴジラ、ゴジラがやあってくる~♪」と歌った記憶があります。
どこで聞いたかは分からないけど、知らぬうちに身についていた音。
その音をつくった作曲家が伊福部さんです。
ちなみに伊福部さんは、地震速報の音の生みの親でもあります。
今や日本人誰もが分かる「サイン音」となった地震速報。その作成をNHKに依頼されたのは、伊福部昭の甥・伊福部達(とおる)さん。与えられた時間が少ないなか、彼は伊福部昭の交響曲「シンフォニア・タプカーラ」の和音を基に地震速報の音を作ったのです。
ゴジラのテーマは、メッセージ性の強い音楽
ゴジラのテーマは、切なさが宿っています。
怖さや勇ましさももちろんありますが、それだけでは言い尽くせないメッセージ性を持つ音楽です。
それは、作曲による面と奏者による面、双方の影響があるのではないかと思います。
シンプルな構成が「収束感」を生む
ゴジラのテーマではとてもシンプルな構成をしています。
・弦によるメロディーと、その下で細かく一定に刻まれるリズム
・楽器を変え、音を変え、何度も繰り返されるフレーズ
1曲を通して、徐々にメッセージ性を蓄積していく作りになっています。
このシンプルな「繰り返す構成」の代表はフィギュアスケートでお馴染みの「ボレロ」ですが、ボレロが期待感を高める役割が強いのに対し、ゴジラのテーマでは「収束感」が宿ります。
伊福部昭は「切なさ」のために管楽器は選択できなかった
また、そのメロディーに弦楽器を採用しているのには時代の影響があります。
ゴジラのテーマが作られたは戦後。伊福部昭は戦争を生き抜いた作曲家です。
だから、管楽器は「戦時中の音」が連想されるため切なさの表現には向かず、メロディーは弦楽器に任されました。
弦楽器は弦を弓でこすって奏でる楽器です。
弦楽器の音というとヴァイオリンの優美な音が思い浮かばれるかもしれませんが、低音は響きにくいため強めにこする場合があります。
その時の音は雑音がふんだんに含まれた少し苦しげな音色になるのです。
この音と、音のつなぎ方が「切なさ」を生み出しています。
最後の一押しは演奏者の気迫
メッセージ性の最後の一押しは演奏者の気迫です。
何かを乗り越えたものだけがもつ信念。
底を見たものだけがもつ決意。
生命であることを叫んでいる泥臭さ。
戦後のみんなが一丸となってひたすらに上を目指して駆け抜けた時代、その時代は人間の体つきや体の使い方も違ったのでしょう。
伊福部昭のゴジラのテーマは、奏者の肉体の違いを感じさせる音が鳴ります。
伊福部さんは「ゴジラ」の母かもしれない
ゴジラを知らない者でも知っている「ゴジラのテーマ」。ゴジラという作品から一人歩きして「ゴジラ=この音楽」となったということからも、世の人のゴジラのイメージの幾分かを伊福部さんが担っているといえるでしょう。
コントラバスの弦を革手袋で擦った音。
それを加工したのが初代ゴジラの鳴き声です。不気味だけれどそれだけではない。そんなゴジラを生み出したのは、伊福部昭さんの力が大きいと思います。